トヨタ自動車様に古来の糸引き道具(足踏み式座繰り機)の復元をしていただきました

目次

これまでの経緯

稲武地区の養蚕製糸は全国トップブランド

古橋家6代当主の古橋源六郎暉皃(てるのり)が、明治の殖産興業として養蚕業を奨励して以降、稲武地区(現愛知県豊田市)では養蚕製糸業が盛んになりました。最盛期には400軒以上の養蚕農家があったとされています。

養蚕製糸業が産業として地域を支えたことに加えて、明治15年(1882)から始まった毎年の伊勢神宮への献糸や、大嘗祭の繒服(にぎたえ。絹織物のこと)の調進など、稲武地区には全国トップブランドと言える伝統文化が今なお継承されています。

昭和年代以降は、化学繊維の台頭や安価な外国産に押され、国内の養蚕製糸業は風前の灯となっていきます。

稲武地区も養蚕農家は無くなってしまい、有志団体「いなぶまゆっこクラブ」(金田平重 代表)が毎年、桑畑の整備、蚕の飼育、糸取りなどを手作業で行い、技能継承や伝統文化の継承に取り組み、一般財団法人古橋会が彼らをバックアップしています。

足踏み式座繰り機の老朽化

平成17年(2005)に稲武町が豊田市に編入合併されるまでは、稲武町役場が毎年の伊勢神宮献糸のコーディネートを担うなど、養蚕製糸の伝統文化継承を町役場に下支えしていただいていました。

しかし編入合併後は、伊勢神宮献糸や大嘗祭繒服調進のコーディネート機能が宙に浮いてしまい、私ども一般財団法人古橋会が引き継ぐことになりました。

これまでの足踏み式座繰り機
これまでの足踏み式座繰り機

平成度の大嘗祭のために、稲武の地元の指物大工さんが制作した、これまでの足踏み式座繰り機は、30年以上使い続けてきたため、老朽化が進行していました。
しかし、今や地元に制作をしたことがある人はおらず、民間法人である私ども一般財団法人古橋会だけでは、毎年のまゆっこクラブの活動を支えるだけで精一杯で、なかなか器具の更新には踏み込めずにいました。

稲武地区養蚕・製糸伝統文化伝承事業実行委員会の発足

令和元年度に、稲武地区から令和度の大嘗祭のための繒服(にぎたえ)調進を行い、これを機に令和2年度から「稲武地区養蚕・製糸伝統文化伝承事業実行委員会」が発足しました。

政教分離の原則に配慮した形で、公的なご支援をいただくことができるようになり、今回の足踏み式座繰り機の復元に弾みがつきました。

トヨタ自動車様との出会い

令和2年度は、新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が働き方の変革を求められました。
トヨタ自動車株式会社様も、リモートワークをされる方が多く、ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」を稲武地区で実証してみようという実験を始められました。

空気がきれいで、川のせせらぎが聞こえる稲武地区の旧商工会館で働くだけでも、非日常な空間に新鮮味を感じていただくことができます。
これに加えて、稲武地区にある地域課題をビジネスとして解決することができないかと取り組まれる中で、足踏み式座繰り機の課題を知っていただきました。

トヨタ自動車様にまゆっこクラブが糸引き作業を実演して説明しています

トヨタ自動車様も、足踏み式座繰り機の制作は未経験とのことでしたが、トヨタ技能者養成所(トヨタ工業学園)には、技能五輪に向けて技能を磨いている若手技能者(木工、鉄工、塗装)もいて、復元ができそうだとおっしゃってくださいました。

復元された足踏み式座繰り機

精度の高いものづくり

トヨタ自動車様に復元していただいた足踏み式座繰り機は、ピカピカの見違える姿でした。
機構をよく研究されて、回転のブレが無く、動力の伝達がスムーズで、非常に精度の高いものづくりです。
まゆっこクラブで実際に糸引きをしてみると、これまでよりも小さな力で作業ができて、負担が減り、効率が上がりそうです。

撥水性が必要な天板部分は、レクサスの塗料を使っていただきました。

作り手は技能五輪金メダリスト

技能五輪金メダリストの3人
お披露目会:深津敏昭様(トヨタ工業学園長)と太田稔彦様(豊田市長)

今回の復元には、20歳の技能五輪金メダリスト3人にも携わっていただきました!
お披露目会に来てくださった3人はとてもしっかりされていて、これから国際大会にチャレンジされます。

伝統文化のこれから

伝統文化の継承には、人や技能だけでなく、道具も必要

伝統文化の継承には、「人」が「技能」を習得して継承していくことがもちろん必要ですが、「道具」もまた必要です。
今回復元していただいたことで、数十年は大丈夫そうで安心しています。

さらに、数十年後にまた更新するときのために、図面化もトヨタ自動車様に実施していただきました。
3Dモデルをパーツごとに作成していただいたため、数十年後にたとえ木工職人がいなくても、3D樹脂プリンターでの復元も可能です。

地域や企業様とともに

令和3年(2021)3月10日に開催した、報道機関向けのお披露目会には、中日新聞様とCBCテレビ様にお越しいただいて、「伝統文化 × トヨタ自動車様のテクノロジー」という面白さを取材していただきました。

トヨタ自動車様は、ご存知の通り、豊田佐吉による豊田自動織機の発明量産がルーツになっていて、綿紡績と絹の違いはあれど、繊維産業という共通点があります。

また、豊田市がまだ挙母町(ころもちょう)だった昭和初期までは、養蚕製糸業が挙母町一番の主要産業でした。
養蚕製糸業の先行きが危ぶまれる中で、当時の挙母町長の中村寿一の尽力などにより、昭和13年(1938)に自動車量産工場である挙母工場(当時豊田自動織機製作所)が完成して、豊田市はクルマの町になっていきます。

稲武地区の養蚕製糸のように、静かに脈々と受け継がれてきた伝統文化も、断絶してしまうものが多々見られる時代です。
貴重なストーリーの持つ魅力を、地域や企業様とともに活かし合いながら、共存共栄できるやり方を模索していきたいと考えています。

ご尽力いただいた方々との記念撮影
令和3年(2021)3月10日お披露目会
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この記事を書いた人

私たちは、300年以上の歴史がある豪農古橋家の歴史と家訓「家は徳に栄える」を受け継ぐ財団法人です。
私たちは、豪農旧家、中山間地域、歴史や伝統文化など、古めかしくて時代遅れとみなされたものを、現代においても通用する形に磨き上げて、人と人との繋がりが人を支え、人間性に根ざした、与え合う社会の実現に貢献していきます。

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