シルクフードとサステナビリティ【令和4年度第1回稲武KAIKO学】梶栗隆弘様(エリー株式会社)講演と堤幸彦監督パネルディスカッション
養蚕製糸の新しい可能性を学ぶ勉強会「稲武KAIKO学」
令和2年度から稲武地区養蚕・製糸文化伝承事業実行委員会(事務局:豊田市役所稲武支所。以下、実行委員会)が地域に発足しました。
稲武の養蚕製糸の伝統文化を、稲武のまちを持続可能にする「まち守り」の視点で捉え、新しい産業を模索しつつも、地域住民から遊離したものにならないよう、地域の暮らし、自然との共生などまで見据えた、志の高い活動にしようとしています。
これまで実行委員会では、地元の保存団体「いなぶまゆっこクラブ」の活動を支援したり、映画「時の絲ぐるま」の上映会を豊田市内の各地の交流館で開催したり、足踏み式座繰り機を復元したり、豊田国際紙フォーラムで映像作品を制作したり、愛知県立芸術大学と共同プロジェクトをしたり、各種イベントで普及活動を行ってきています。
今回実行委員会が主催する「稲武KAIKO学」は、カイコやシルクの新しい可能性を学ぶべく、毎回外部講師をお招きしてご講演いただきます。令和3年度では、農研機構の瀬筒秀樹様に基調講演していただきました。地域住民や企業、関連団体まで巻き込んで、自由闊達なディスカッションを行って、新しい活動が芽生えるきっかけになることを目的としています。
2022年8月27日 令和4年度第1回稲武KAIKO学 概要
テーマ | シルクフードとサステナビリティ |
日時 | 2022年8月27日(土) 13:30~15:30 |
会場 | 豊田市役所稲武支所 2階多目的ホール |
講師 | 梶栗隆弘 様(エリー株式会社) |
ゲストスピーカー | 堤幸彦 様(映画監督・演出家) |
主催 | 稲武地区養蚕・製糸文化伝承事業実行委員会 |
講師 梶栗隆弘様のご紹介
エリー株式会社
代表取締役
1986年生まれ、福岡県宗像市出身。
大学卒業後、食品メーカーに入社し、量販店/ベンダー向けの商品開発に従事した後に、事務系作業のアウトソーシングサービスを起業。
2018年に蚕を次世代の食品・食料資源にリノベートするべく、エリー株式会社を創業。
ゲストスピーカー 堤幸彦様のご紹介
映画監督・演出家、東海アクションプロジェクト 主宰
愛知県立芸術大学 特任教授
四日市生まれ名古屋育ち。
映像制作会社でTV番組、CM、PV等を手掛け、映画『バカヤロー!私、怒ってます「英語がなんだ」』で映画監督デビュー。
『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『トリック』など、TVドラマ・映画・舞台等で多くの話題作、ヒット作を生む。
アドバイザー 瀬筒秀樹様のご紹介
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
生物機能利用研究部門
絹糸昆虫高度利用研究領域 領域長
遺伝学・集団遺伝学・昆虫生物学で、シルクや昆虫ゲノムの多様性研究、マウス突然変異体開発、遺伝子組換えカイコに関する研究などを行ってきた。現在は、遺伝子組換えカイコを用いた有用物質生産の実用化による「蚕業革命」を目指して研究開発を行っている。
アドバイザー 冨田秀一郎様のご紹介
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
生物機能利用研究部門
カイコ基盤技術開発グループ グループ長
昆虫を材料とした発生生物学、進化生物学が専門。昆虫の生理、遺伝、発生などの生物学的現象を研究対象にする一方で、カイコの新しい活用に向けた規制への対応や、情報提供、普及活動も行っている。
アドバイザー 飯塚哲也様のご紹介
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
生物機能利用研究部門
カイコ基盤技術開発グループ グループ長補佐
遺伝子組換えカイコを始め、セリシン蚕、玉繭生産用品種、蛍光シルク品種、超極細品種、高強度品種など、多くの品種を育成している。その他、遺伝子組換えカイコの商用化に向けて、スマート養蚕システムの開発などに取り組む。
実行委員会より一般財団法人古橋会常務理事 古橋真人※本記事執筆
一般財団法人古橋会 常務理事
稲武地区養蚕・製糸文化伝承事業実行委員会 委員
稲武で明治期に殖産興業として養蚕業を奨励し、伊勢神宮献糸の伝統文化を復興した古橋家6代当主の古橋源六郎暉皃(てるのり)の来孫(ひ孫の孫)にあたり、一般財団法人古橋会の経営者。
古橋家の資産を継承した財団法人古橋会は、稲武の養蚕製糸の伝統文化の継承事業も手掛けており、現在は豊田市稲武献糸会の事務局も担っている。
愛知県豊田市稲武はシルクのトップブランド
稲武地区からは、明治15年(1882)から毎年、伊勢神宮に生糸を献納しており、令和元年度からは熱田神宮にも生糸の献納を開始しました。
また、皇室で最も重要な祭祀である大嘗祭(天皇陛下の代替わり後に最初に行われる新嘗祭のこと)では、繒服(にぎたえ)という絹織物も、稲武から調進しています。
これは、平安時代の古書(延喜式など)に、重要な祭祀には三河産の生糸を用いるのが良いという記述があるためです。稲武の養蚕製糸の伝統文化について詳しくは以下の記事をご覧ください。
豊田市長の太田稔彦様からは、国連のハイレベル政治フォーラムに参加された際の、世界中の人たちが日本人と同じ暮らしをしたら、地球2.8個分もの自然資源が必要という危機意識をお話いただきました。
また、山間部の旧町村と合併した豊田市は日本の縮図であり、災害で揺らぎやすい市街地の暮らしに対して、山の方の暮らしは動じにくいという実感と合わせて、今日の「シルクフードとサステナビリティ」というテーマはまさにぴったり。こういう視点を持つことで、グローバルな中で、先進国も途上国も、共に会話ができるという期待をお話いただきました。
第1部:梶栗隆弘様 基調講演 かいこでつくる食の未来「シルクフード」
以下は、梶栗様にご講演いただいた内容を、実行委員会の委員である一般財団法人古橋会常務理事の古橋真人が要約執筆したものになります。
かいこという昆虫をまず好きになってもらいたい
今日はエリー株式会社が開発した商品の試食も用意しています。後で会場にお越しの皆様に試していただき、昆虫食が初体験の方もいらっしゃると思いますが、価値観が変わるきっかけになると良いなと思っています。
昆虫食に対して抵抗のある方が多いと思うのですが、知れば知るほど楽しいものですので、是非そういった気持で聞いていただければありがたいです。
起業した理由、かいこ(蚕)の事業を始めた理由
結論から言うと、僕(梶栗隆弘様)は「未知なものが楽しい」からです。
大学卒業後に最初に勤務した食品業界は、当時は保守的で、同じようなものを価格競争で販売していくというやり方が多かったので、もっと新しいことをしたいと考えていました。
最初に勤務した食品メーカーを退職して、まずは事務作業のデータ入力や分析などのアウトソーシングサービスを起業しました。それから5年ほど経って、現在のエリー株式会社を創業しました。現在の会社は2社目の起業になります。
もともと食品にはずっと興味があって、将来は3Dフードプリンターのような機械を使って、食べたいものを好きな食感で自動でプリントして食べられる時代がくるかもしれないと思ったときに、フードプリンターでのインクになるような食品素材はどんな時代でも必ず必要だと思いました。
特にタンパク質が、より安く、より使いやすい方が良いと考えたときに、今あるものじゃないものが食品になり得ると考えたことが、昆虫に着目したきっかけでした。
人や地球の役に立つし、大企業は参入が難しい
後で詳しくご説明しますが、人や地球の役に立つということでも、昆虫食はぴったりでした。
一方で、昆虫食が事業として成り立つのかは皆が疑問に思うことで、大企業はなかなか参入しづらいです。
だとしたら自分がやることに価値があると考えました。
日本は昆虫食と言えばかいこ(蚕)でしょ!
昆虫食と言えば、多くの方はコオロギを思い浮かべると思います。
これは、昆虫食が主にヨーロッパから発信されてきていることに関係しています。
ヨーロッパでは、かいこの文化はほとんど無くて、彼らが昆虫を食べるとしたらコオロギになるということです。
日本はかいこの文化がすごく深くて、歴史もあり、研究の蓄積も世界一です。
日本だからこそ、世界に発信できる新しい昆虫食として、かいこを選んでいます。
蚕を食用として育てて、食品素材にする
蚕はこれまで、良い絹をつくるために育ててきましたけど、これを食用に育てるということをまず行います。
当然、絹も使えたほうが良いので、絹の副産物である蛹(サナギ)を利用しています。
次に、おいしくて使いやすく、栄養価の高い食品素材にします。
具体的には、蚕の蛹をパウダーやペーストにします。
最後にそれを食品にするということで、例えば、Pascoさん(敷島製パン株式会社)はエリー株式会社の蚕パウダーを使用してクロワッサンやマドレーヌを作ってくださっています。
他にも、大正製薬さん(大正製薬株式会社)との共同研究で、かいこプロテインスムージーも数量限定で販売しました。
エリー株式会社は、蚕が当たり前のように食べられる世界を通じて、人々が楽しく暮らせる社会を作りたい
昆虫食は食べるけど、牛肉は食べないとか、そういう何かを食べないというよりも、今までの歴史とか伝統を残すために、昆虫食のような新しいものを食べていきましょうというスタンスです。
蚕は食用にとても適している
人類の養蚕の歴史はおよそ5000年と言われています。
品種改良が繰り返されて、完全に家畜化され、人が介在しないと生きられない昆虫です。
そんな蚕は、食用にとても適しています。
- ①成長が早い。
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孵化して28日で収穫できる。
- ②逃げない。鳴かない。飛び跳ねない。
-
普通の昆虫を家で飼うと、当然、逃げたり、鳴いたり、飛び跳ねたりする。
- ③高密度で飼育できる。
-
草食性で共食いをしない。
棚にして立体的に飼育できるため、3齢時で12,500頭/m2という高密度化が可能。 - ④飼育が自動化できる。
-
既に大量生産能力を持つ養蚕工場が存在。
日本のかいこ研究は世界をリードしている
令和3年度の稲武KAIKO学で瀬筒先生がお話されたように、蚕には新しい可能性がたくさんあり、日本が世界をリードしています。例えば、蛍光カイコや、蚕からワクチンを作るなどの事例があります。
これまで良い絹をつくるために品種改良が行われてきましたけど、良い食品にしようと思ったときにも、対応できると考えています。
かいこがパーフェクト食材な理由①環境にやさしい
世界では食糧危機が起こる
日本は少子高齢化ですが、世界全体では人口は増え続けていて、2050年には世界人口は100億人(2021年の世界人口は78憶7500万人)になると推定されています。
また、これまで質素な暮らしをしていた新興国の方々が豊かになっていくと、ステーキやお寿司のような高価なタンパク質を食べることが増えてきます。
こうしたことから、世界の食糧が不足する危機の中でも、特に不足するのが、人間の必須栄養素であるタンパク質です。
また、牛や豚などの家畜の飼育に必要な穀物に目を向けると、直近の数十年間で穀物の収穫面積は変わっていません。つまり、地球上では穀物生産に適した土地はほとんど余っていないということです。
技術革新によって生産性は向上しているため、穀物の総生産量(供給)は伸びてはいるのですが、世界人口の伸びによるタンパク質需要の増加スピードが上回るため、2025年から2030年の間に、タンパク質が不足するタンパク質危機に陥るのが世界的な課題です。
代替タンパク質で持続可能な食糧生産へのシフトが進む
プラントベースミート(植物肉)、昆虫、シャーレのなかで肉を培養する培養肉のような代替タンパク質に注目が集まっています。
ヨーロッパやアメリカを中心に、代替タンパク質領域への投資も拡大(2020年は前年比3倍)しており、現在世界には100社以上の昆虫食関連企業が登場しています。
昆虫は環境にやさしいタンパク源で、今後10年で市場は10倍になる
昆虫は、牛と比べて、エサはマイナス75%、土地はマイナス80%、水はマイナス99%、排出する温室効果ガスはマイナス98%と、とても環境にやさしいことが分かります。
市場規模も少しずつ伸びてきていて、2030年には世界で1兆円ほどになると予想されています。
かいこがパーフェクト食材な理由②栄養が豊富
かいこは、タンパク質が豊富に含まれているだけでなく、ビタミンやミネラルなども豊富な栄養食品です。
特に、サプリメントにもなっているオメガ3脂肪酸が豊富です。
オメガ3脂肪酸は、肌の保湿性や滑らかさの改善、血中のコレステロールの低下などの効果が期待できるのですが、青魚くらいにしか含まれていません。
大正製薬株式会社との共同研究では、かいこには62種類の栄養素が含まれることが分かりました。
また、京都大学との共同研究では、健康機能性成分を調査しており、トマトのリコピンとか、大豆のイソフラボンのように、かいこにしか入っていないというような健康機能性成分が見つかるかもしれないと期待しています。
蚕成分100%のパウダー。タンパク質約70%、糖質0、60種類の栄養素、必須アミノ酸も豊富。 pic.twitter.com/JEDM6Dt3RU
— シルクフード SILKFOOD (@SILKFOOD_Ellie) March 26, 2021
かいこにはうまみ成分も豊富に含まれている
味の素株式会社との共同研究により、かいこにはうまみ成分(グアニル酸、イノシン酸、グルタミン酸)が豊富に含まれていることも分かりました。
実際にエリー株式会社が、かいこが50%含まれているハンバーガーを提供した時は、約90%のお客様がおいしいと回答してくださいました。
ついに「シルクフード」お披露目です!!
— シルクフード SILKFOOD (@SILKFOOD_Ellie) January 17, 2020
是非、遊びにいらしてください!
ただ単に「美味しい」のではなく、「蚕」の風味の良さを感じられる「美味しい」を目指しました。
「蚕」の食品としての可能性を十分に感じていただける商品となっています。https://t.co/rcM01PF1T6
かいこがパーフェクト食材な理由③用途が広い
大豆は、醤油や味噌、豆乳や豆腐、きな粉やおから、枝豆など、様々な用途に使われています。
僕たちは、かいこという昆虫を本当に世界中の食品素材として広めたいと考えており、そのためには広い用途で使えるということが非常に重要です。
コオロギやミルワームなどは、パウダーにすることが一般的です。かいこもパウダーにすることができますが、それに加えて、ペーストにもできるということが重要です。
お肉を昆虫食でつくろうと考えた時に、パウダーでお肉をつくることは全く想像できないと思います。食感があるものはペーストでないとつくれないのです。
様々な代替可能性がある
かいこは量産することも可能であるため、最終的には本当に広い範囲に代替可能性があります。
- 小麦の代替:市場規模250兆円
- 肉の代替:市場規模80兆円
- 卵の代替:市場規模6兆円
- 乳の代替:市場規模80兆円
これからの養蚕は、かいこから絹だけでなく、様々な価値を生み出す
今までは絹にするための糸しか活用していなかったですが、これからは例えば、フィルムや粉末や水溶液にして医療や製造業の分野に活用したり、化粧品に活用したり、それこそ食品にしたりすることが高い付加価値を生みます。
既存の枠組みにとらわれない生産と販路づくりが課題
これまでは、より良い絹を、より大量に生産するために、養蚕業は発達してきました。
しかし、既存の養蚕製糸業で一般的に行われている高温での乾燥殺蛹(さつよう)をすると、食用にはならなくなってしまいます。
逆に、良い絹は取れなくてもいいくらいの発想をして、味や栄養価や食品用途を追求すると、新しい養蚕業の形が見えてくるかもしれません。
稲武はかいこを中心とした産業創出ができる!
- ①養蚕の伝統が続いている。
-
大規模な製糸業ではなく、小規模な座繰り製糸という点も、既存の枠組みにとらわれずに新しいことが始めやすいです。
- ②ものづくりの世界的な大企業が地元にある。
-
将来的にかいこを量産していくときには、製造業の力が必ず必要になります。
- ③稲武の道の駅や豊田スタジアムなど、大型観光施設がある。
-
かいこの生産地域を観光名所化することもできます。
- ④健康志向の高まり。
-
あるかまい稲武(稲武ウォーキング)のようなアクティビティとも相性が良いです。
第2部:シルクフードの試食
梶栗様にご用意いただいた3種類のシルクフードを試食しました。
どれも言われなければ、蚕が入っていることは分からないほど、自然に受け入れられるし、美味しかったです!
- 国産米と蚕の旨かるチップス
- (試作品)蚕パウダーと桑の葉を使ったチョコレート(緑色)
- (試作品)蚕パウダーと桑の実の粉末を使ったチョコレート(紫色)
第3部:パネルディスカッション
梶栗隆弘様に加えて、ゲストスピーカーの堤幸彦監督、農研機構の瀬筒秀樹様、冨田秀一郎様、飯塚哲也様、実行委員会の古橋真人の6名でパネルディスカッションを行いました。
司会進行は、㈲マイルストーンズの伊藤光弘様が務められました。
以下は、パネルディスカッションの内容を、実行委員会の委員である一般財団法人古橋会常務理事の古橋真人が要約執筆したものになります。
堤幸彦監督より自己紹介とメッセージ
なぜ私(堤幸彦監督)が今日ここに参加させていただいているかと言うと、私も愛知県出身で、地域振興の仕事にも多数携わらせていただいているからです。
また、稲武KAIKO学は、地球で生きる一人の人間としてどうあるべきかという大きなテーマについて、カイコという昆虫を通じて考え、学ばせていただける興味深い機会だと感じました。
何か役に立てることがあれば提案していきたいと思います。
瀬筒秀樹様より自己紹介とメッセージ
令和3年度の稲武KAIKO学のときに講演させていただきました瀬筒です。
そのときには、ご来場の方に強い関心を持っていただいて、他の地域では得られないような質問もいただけて、可能性がある地域だと実感しました。
梶栗さんにお話いただいたカイコを食べるということについては、身近で小さく始めることもできますので、何かが動き出すことを期待しています。
今日は農研機構から、冨田(秀一郎様)と飯塚(哲也様)も来ています。また、生きているカイコや、シルクの新しい活用事例をいくつか会場に持ってきていますので、ご覧ください。
古橋真人より自己紹介とメッセージ
稲武の養蚕は、私の曽祖父の祖父である古橋家6代当主の古橋源六郎暉皃(てるのり)がきっかけになっています。しかし、当時も古橋家は稲武地区の養蚕業や製糸業の権益を囲い込むようなことをは全くしませんでした。
古橋家が前面に出がちではあるものの、稲武の養蚕は古橋家だけの活動ではなく、地域の大切な宝物です。
実行委員会では、全国トップレベルのブランドをもつ稲武シルクが、人が集まる求心力や魅力の一つになり、稲武や豊田市や愛知県を盛り上げていきたいと考えています。
もう一つ告知をさせていただくと、稲武シルクの保存団体「いなぶまゆっこクラブ」の会員も募集しています。特に、桑の栽培や、カイコの飼育にご興味のある方に正会員になっていただきたいと考えています。周囲にお声がけいただけるとありがたいです。
試食したシルクフードの感想
今日梶栗さんにお持ちいただいたシルクフードの試食なのですが、普通のお菓子と同じように食べられて、違和感も特に感じませんでした。
一般のお客様が拒否感を感じないように配慮されているのですか?
配合量には気を使っていまして、かいこの独特の風味が強くなりすぎないようにという味づくりの観点もありますし、粉末を混ぜ込み過ぎると食感が損なわれたり、製造上の都合もありまして、バランスはとても難しいです。
会場の皆様にお聞きしたいのですが、今日のシルクフードに、もっとかいこを混ぜても良いと感じる方はどのくらいいらっしゃいますか?
(会場の半数ほどが、もっとかいこを混ぜても良いと手を挙げられました)
やっぱりそうですよね。ありがとうございます。
もっと昆虫らしさを感じたいという方が、今日の会場には多いのかもしれません笑
昆虫食のイメージが変わった!
堤監督と事前に打合せをしたときには、監督からは「昆虫を食べるのだけは勘弁してくれ」というお話がありましたけど、今日はいかがでしたか?
イメージが完全に変わりました。
僕は頭で納得できたら、切り替えができるタイプなんです。
今日僕たちは梶栗さんのお話を40分お聞きして、シルクフードの希望や、地球にとって昆虫食は大事なんだということを納得できましたけど、一般のお客様にはそこまでご説明する機会はなかなか無いので、そこをどう乗り越えていくかがポイントですね。
シルクフードや稲武シルクの発信
今日の稲武KAIKO学には、映像の撮影班に入っていただいてます。
シルクフードの話題と、この稲武地域にはオンリーワンのストーリーである「にぎたえ」があるということを、外部に発信したいと考えています。
映像の力で地域を盛り上げる活動をされている、東海アクションプロジェクトの撮影班にお越しいただいています。
また、堤監督からも申し出ていただいて、監督が所属されている株式会社オフィスクレッシェンドのYouTubeチャンネルの撮影班にもお越しいただいています。
シルクフードの普及に向けて
昆虫食を普及させていったり、マーケットを立ち上げていくということに関して、梶栗さんはどのような課題を感じていらっしゃいますか?
今までの本当に初期フェーズだと、新規性やもの珍しさで一旦は買っていただけた段階です。
これを、2回目3回目と買っていただける普通の食品と同じようにしようとすると、昆虫食というよりも、普通に売れる商品をどう開発するかというフェーズに入ってくると考えています。ここはとても難しいです。
栄養価値の訴求だけでなくて、どこで作っているかという生産的な価値や背景も大切になってきます。
例えば、稲武のかいこから作ったシルクフードを稲武の人に食べていただくということも、課題を乗り越える方法の一つだと思います。
私たちが普段どこかに旅行したり、道の駅に立ち寄ると、ご当地のものを食べたり、お土産にすることがよくあります。そのような地域性やローカル性は、シルクフードの間口を広げる方法の一つですね。
稲武にも飲食店はたくさんあり、稲武の道の駅には地元の事業者さんの食べ物がたくさん並んでいます。
そのようなご当地の食べ物に、稲武のシルクパウダーが混ざっていて、共通のブランド名がついているような展開はワクワクします。
特にお土産は、帰ってからご自宅で家族の話題になるような広がりが期待できます。
稲武のかいこからは、なんでもできる
かいこを食用にすると考えた時に、稲武で行われている養蚕は、日本でも一番品質が良い状態でかいこを手に入れることができます。
基本的には、自由自在になんでも作れる気がしています。
これまでは繭を糸にするために養蚕を捉えていましたけど、最初から繭もサナギも両方使おうとすると、技術開発のアプローチもかなり変わってきて、新しいやり方もたくさん出てくると思います。
繭もサナギも両方使い切ることができると、食品ロスやSDGsなどと言われている昨今において、画期的なケースになりそうです。
サナギ粉という魚釣りに使う撒き餌があります。サナギ粉はすごく臭くて、それで魚が寄って来るのですが、実は製糸工場から出るカイコのサナギから作られています。
大きな製糸工場では、養蚕農家から送られてきた繭を全部一気に製糸できないので、100度以上の熱で乾燥させて保管しておき、少しずつ製糸していきます。
カラカラに乾燥させた繭をさらにお湯で煮て製糸するため、そこでも変質してしまって、出てくるサナギは臭くなってしまうのです。
生のままのサナギと、製糸工場で出てくる乾燥させたサナギでは、風味が全然違います。
生のままのサナギを手に入れるのは、日本では難しいのですが、それが稲武では可能だということですね。
かいこをストーリーから考えてみる
今日の梶栗さんのお話に出てきた世界の食糧危機というのは、政治の中心課題であっても良いのかなと感じました。
また、素晴らしい栄養素に満ち溢れていて、しかも環境に良いとなれば、多少匂いや味がきつくても我慢できるという人もいる気がします。青汁もそのようなものかもしれません。
今日、展示してある稲武のシルクの歴史について、古橋さんからお聞きしました。このようなストーリーをブランドに活かすことは考えたいです。
例えば、沖縄や奄美大島には「ミキジュース」というものがあります。お米を主原料にしたジュースで、沖縄に行くと自動販売機などで普通に売っています。
沖縄にしか売っていないのですが、海を散歩してから冷えたミキジュースを飲むと、しっくりくるんです。僕の中では神格化しています。
映画『君の名は。』にも登場して話題になったとのことで、映画やメディアとうまく繋がることで、ストーリーのある商品を、その地域の歴史的な伝統とともに全国に知らしめることができる気がします。
養蚕業は、日本の歴史の中でも非常に重要な経済の一部でもありました。化学繊維の台頭で、日本の養蚕業は没落産業のように言われていますけど、もう一度そこにある宝物を発見していき、ストーリーを加味して商品化していくという希望はあるのではないかと感じました。
ストーリーのある商品は、その地域の人たちが何らかの関わりを持って、関与しながら進んでいき、共通となるワードやブランドを地域全体の財産として共有していくと良いですね。
明治15年から続いている伊勢神宮への献糸や大嘗祭といった伝統が、現実的にはこの稲武地区の皆さんの手によって継承されているんだというところに大変崇高なものを感じます。
今日梶栗さんがお話になった人類の食の危機と結びつけるものとして、例えば私が手がける映画やドラマの中で、一部そういう要素を取り入れるという方法もありますが、それだけでいいのかというか、それをどう継続し発展していくかということを考えると、現実にかいこを毎年毎年育てて、糸にしていただいてる皆さんの思いをもっと知らなきゃいけない。
先ほどご紹介いただいた東海アクションプロジェクトでは、主に名古屋エリアの大学生たちを集めて、社会見学をしています。次世代の新しい見方やアイデアなども参考にしてみたいです。
ミキジュースは地域ブランドとして大成功していて美味しいし、何かそういうものが生まれると良いなと思います。
稲武のシルクに期待すること
農研機構の皆様は、普段は稲武だけでなく他のシルクにまつわる地域や事例に触れる機会があると思います。
稲武では特にどのようなことが期待できそうでしょうか?
「にぎたえ」というこの地域特有のブランド力は魅力があります。
食品だけでなく、いろんなものに「にぎたえ」というブランドを生かしていくと良いと思います。
商品ができて、生産を増やしていければ、やがてはトヨタ自動車株式会社さんや株式会社デンソーさんのような地元の大企業のお力も借りて、量産化していくという道筋が見えます。
稲武は桑の栽培や養蚕には適していると言えるのでしょうか?
桑の栽培には何も問題は無いし、稲武のような涼しいところは冷房や換気のための燃料代も抑えることができます。
今は群馬県で養蚕業が盛んなのですが、群馬県は夏が暑すぎてカイコが飼えないということに困っています。カイコは気温が36度を越えると、弱ったり、病気になったりしてしまいます。
稲武オリジナルの品種も開発できる
稲武に特有のカイコの品種を作ってしまうのもブランディングになります。よそでは育てていないカイコの品種を作ってしまうのです。
まゆっこクラブさんが育てているカイコの品種は、春嶺×鐘月という品種です。春に飼うカイコとしては最もポピュラーな品種ですが、実はカネボウさんが開発された品種で、その研究所は愛知県の春日井にあります。
このように、品種の開発は盛んに行われてきているのです。
りんごの品種もたくさんありますね。
稲武オリジナルのかいこの品種は「風の玉」というネーミングが良いんじゃないかな。
品種の開発とはどういうものなのでしょうか?
また開発にはどのくらいの期間がかかるのですか?
育種の目標をまず決めます。
大正の頃だったら、たくさん糸が取れることや病気に強いことを目標にしていたと思います。
しかし、今は個性がある品種も重視していて、例えば、世界で一番細い糸をつくる品種などを開発しました。この糸で反物をつくると、これまでの糸のものとは、風合いや光沢が変わってきます。
品種の開発を普通に行うと5年から10年ほどかかってしまいます。
例えば、きれいな糸をつくる品種と、病気に強い品種をかけ合わせて、どちらの性質も強く出たカイコを選抜していって、両方の性質を持った品種を開発していくということになります。
稲武のシルクのこれから
稲武KAIKO学では、テーマや可能性を広げつつ、具体的に地域で何かを始めていくということも大切にしています。
本日登壇されている皆様から、将来的な可能性と身近な活動の両方をお話いただきたいと思います。
私は、「まず知っていただく」ということが大事だと考えています。
今日、堤監督が梶栗さんのお話を40分聞いたことで、昆虫食に対するイメージが変わったとおっしゃっていて、知っていただいたり、きちんと発信できたら、世界は少しずつ変わっていくんだなと改めて実感しました。
大嘗祭で、絹織物の繒服(にぎたえ)と対になる麻織物の麁服(あらたえ)というものがあります。あらたえは徳島県から調進されています。
年末のNHK紅白歌合戦の後に『ゆく年くる年』という番組が流れます。大嘗祭のあった2019年には、あらたえは『ゆく年くる年』に登場したのに、にぎたえの愛知県や豊田市は登場しませんでした。
このあたりも、とてももったいないです。
徳島県では、「あらたえ」という名前の温浴施設や、あらたえエールというクラフトビールがあり、地元の方の認知度が高いです。
稲武でも、地元の方と一緒に商品づくりをして、その商品から地域や伝統文化を知っていただくということも期待したいと考えています。
今日ここにこれだけの数の人が集まったことが、すごいことだなと思います。
人を集めて話を聞いていただくには、相手もその話に興味がないといけないですから、稲武KAIKO学は貴重な機会だと思いました。
僕はスタートアップの人間なので、まずはスモールスタートでいいからやってみて、やりながら改善していくと良いと思います。
食品はスモールスタートに向いていますので、これからご協力できたらと考えています。
農研機構としては、より大きなアプローチもしていかなくてはと考えています。
外国では昆虫食への投資が盛んで、昆虫産業を作ろうとしています。日本ではこうした動きが弱く、政府系の研究機関として政治的なアプローチも行い、トップダウンとボトムアップが融合していければと考えています。
古橋さんは、伝統をそのままのやり方で守るだけではだめで、新しいやり方と組み合わせて、伝統を引き継いでいこうとされていますね。
スマート養蚕と呼んでいる養蚕の自動化システムの研究開発も並行して進めていまして、我々としても新しいテクノロジーを使っていかないと伝統を守れないという意識は共通しています。
何かまずやってみるということを通じて、かいこを自分ごととして捉える人が増えていくと良いなと思いました。
我々は研究者としてカイコを生物学的に定義することはできても、一般の方や地域の方にとってのかいこへの思いや概念は、それぞれ違って良いし、自分ごととして、かいこってこういう存在で面白いんだということを周りに伝えていくと、かいこが好きになって仲間になってくれる人が増えてくると思いました。
松阪牛のような地域のオリジナルの品種をつくり出すというのは、すごく意味深いことだと思いました。そのためには、まゆっこクラブの皆さんだけでなく、地元の大きな企業も含めてチームで動いて、時間も5年から10年かかるということで大変なことだと思います。
それが繊維の素材としても、また、医療や食品といった新しい可能性もあるわけですから、今日はこのわずかな時間で勉強させていただきました。
私ももし作品で皆様のために何かできることがあればやってみたい、やりたいという決意を今日しました。
また今回限りではなく、今後もこちらに通わせていただいて、勉強させていただきたいと考えています。
この記事をご覧くださった方々へ
今回のKAIKO学は約60名の方にご参加いただき、熱気と前向きな雰囲気が満ちた素晴らしい機会になりました。
今後も稲武KAIKO学を予定していますので、是非ご参加ください。
また、稲武のシルクに何か関わってみたい、新しい産業や新しい価値づくりにチャレンジしてみたい、という個人や企業の方々は、以下の古橋会の問い合わせフォームなどに、ご意見やご提案をいただければありがたいです。
稲武KAIKO学を多方面でご紹介いただきました
太田稔彦豊田市長のFacebookページ
中日新聞8月28日朝刊豊田版「養蚕 食品として生かす道探る」
矢作新報9月2日「カイコ学 蚕を代替タンパク源に」
当日のアンケート結果
参加してくださった方からはご好評をいただき、以下のようなメッセージをいただきました。
シルク=糸のイメージしかなかったのですが、食べる、そしておいしかったので新発見でした。
人類の食糧危機に対する解決の可能性のきっかけに、稲武(豊田市)がなり得ることがわかりました。
桑の葉を使った料理など、桑の葉そのものの効用や、桑の実、桑茶の良さも同時にアピールできると良いですね。
次回の稲武KAIKO学(令和4年12月4日)
テーマ | シルクの力で、新しい未来を実現しよう! |
日時 | 2022年12月4日(日) 13:30~15:30(開場13:00) |
会場 | 豊田市役所稲武支所 2階多目的ホール 〒441-2513 愛知県豊田市稲武町竹ノ下1-1 |
講師 | 河合崇 様(ユナイテッドシルク株式会社) |
ゲストスピーカー | 清谷啓仁 様(ユナイテッドシルク株式会社) |
主催 | 稲武地区養蚕・製糸文化伝承事業実行委員会 |